TOKEN OF LOVE
12
『』の中は日本語です。
頬を何度も撫でられる。
くすぐったくて思わずそれを払おうと上げた友春の手は、ギュッと力強いもので掴まれてしまった。
(な・・・・・に?)
寝起きの霞む頭ではそれが何なのかなかなか思いつかない友春だったが、掴まれた指先が温かく湿ったものに包まれているのを
感じて、ゆっくりと目を開いてしまった。
「・・・・・」
直ぐ目の前には、綺麗な碧の瞳。そして、自身の指を咥えている唇。
その目は友春と目が合ったことに優しく笑んで、トモと甘く名前を囁いてくれる。
「・・・・・ケ、イ?」
こんなふうに誰かと眠るのなんてアレッシオ以外はいなかったが、それでも確かめるように呼んでしまった。すると、直ぐに頬にキス
が落ちてくる。
自分に対してこんなに優しく触れる相手はアレッシオしかいなくて、友春は一度目を閉じて大きく息をついた後、再び目を開けて
目の前のアレッシオにぎこちなく笑みを返した。
「お、おはよう、ございます」
濃厚なセックスをした翌日、自分を抱いた男に対してどんな顔をしていいのか今だ分からない。
あからさまに笑うことは出来ないし、かといって目をそらすこともしたくない。結局、変な笑みになってしまうのだが、アレッシオは満足
したように頷くと今度は唇にキスをしてからおはようと言った。
「目は覚めたか?」
「は・・・・・い」
はっきり言えば、まだどこか夢心地だった。昨夜は早くからセックスをしたものの、夜が更けてもアレッシオはなかなか解放してくれ
なくて、自分が何時眠ったかも分からない。
ただ、身体は重いものの、肌はさらりとしていて、アレッシオが後始末をしてくれたのが分かった。
「ケイ」
「ん?」
「あ、ありが、とう」
こういう時にこんな礼を言ってもいいのかどうか迷ったが、友春がそう言うとアレッシオは笑って、そのまま身体にかけてあった掛け布
団を肌蹴る。
途端に少しだけひんやりとした空気にブルッと身体を震わせると、アレッシオは突然友春の背中と膝の下に手を差し入れてそのま
ま横抱きに抱き上げた。
「ケ、ケイッ?」
「今日で帰るんだろう?」
「え、あ、はい」
「それなら、帰る前にもう一度風呂に入ろう」
「今ですか?」
唐突なアレッシオの言葉に戸惑った友春だが、アレッシオはそんな抵抗などまるで意に返さない。
そのまま露天風呂の方へと歩いていき、浴衣を着たまま湯の中に身を沈めた。
「あ、あのっ」
さすがに浴衣を着たままで温泉に入るとは思わなかった友春は焦って立ち上がろうとするが、アレッシオの腕はしっかりと腰に巻き
付いたまま離れない。
いや、それどころか片方の手が、湯のせいでめくれ上がった裾から足の間へと入ってきた。
夕べ、気を失うようにして眠りに落ちてしまった友春の身体の後始末をした後、アレッシオはわざと友春に下着を付けていなかっ
たので、直ぐにペニスに触れることが出来た。
朝の男の生理現象のせいか、緩く勃ち上がっていたそれを軽く扱いてやると腕の中の友春が、んっと声を上げながらアレッシオの
首筋に顔を押し付けてくる。
快感を耐えるために目を閉じ、唇を噛んでいるので、アレッシオはもう片方の手を伸ばして何度もその唇を撫でた。少しだけ綻んだ
そこに指を入れると、チュッと吸われ、アレッシオの下半身にも熱が集まる。
「トモ」
直ぐ側にある耳元に囁くと、友春はうっすらと目を開けた。
「ケ・・・・・イッ」
「このまま、いいな?」
「え・・・・・?」
何がと訊ね返される前に、ペニスを嬲っていた手をさらに奥へと伸ばし、昨夜何度も自分の欲望を飲み込んでくれた蕾の表面を
撫で摩った。
さすがに、昨夜ペニスを突き入れた時のように綻んではいないものの、その余韻は十分に残っていたらしく僅かな抵抗の後、ア
レッシオの指を飲み込んでくれる。
「・・・・・っ」
「トモ・・・・・っ」
熱く蕩けたその中を、何度も指で刺激した。
「あっ、はっ、や、んっ」
バシャ バシャッ
友春が身体を揺らすたびに、湯が音を立てて波立つ。
昨日、旅館に着いて早々、この露天風呂の中で友春を抱いたが、その時とは比べ物にならないほどに友春の反応は顕著で、
直ぐにアレッシオの指を3本、中に収めることが出来た。
「はっ、はっ、ま・・・・・ってっ」
「・・・・・」
「か、帰れ、ない、からっ」
このまま抱かれてしまえば、帰りに足腰が立たなくなると訴えてくるが、そんなものは心配無用だ。車でなら、アレッシオが友春の
腰が痛まないようずっと抱いて座って帰れる。
それくらいの気の利きようは、江坂の部下の海藤ならばあるはずだ。
「大丈夫だ、トモ」
「ケ・・・・・イッ」
「このまま私を食らってくれ」
また、しばらくは会えない日々が続いてしまうのだ。今こうして抱き合える時間ギリギリまで繋がっていたいと思うのは友春も同じだと
信じたい。
「・・・・・」
湯の熱さと愛撫のせいで紅潮した頬を、アレッシオはぺろりと舐めた。
「・・・・・っ」
ズチュッ
「ひゃあ・・・・・っ」
少し腰を持ち上げ、そのまま鍛えるまでもなく勃ち上がっていた自身のペニスの上にその身体を引き落とすと、友春の歓喜を含
んだ高い声が響いた。
(私は・・・・・見せ付けたいんだな)
この甘い身体が誰のものか、世の男すべてに見せつけてやりたい。それが友春への好意を隠さない相手ならば、完膚なきまでに
手に入らないのだと知らしめたいほどだった。
「あっ、あっ、あっ!」
腰から下は湯に浸かったまま、友春は何時しか自分から腰を上下させているのに気付かなかった。
力強いアレッシオの下からの突き上げに辛うじて反応している・・・・・そんなつもりだった。
「ふっ、はぅっ、あっ」
(く、くる、し・・・・・っ)
昨夜から続くセックスが苦しい。
しかし、それ以上に深い快感が身体を支配していて、友春は自分の意思ではどうにもならない身体の反応に半分泣きそうにな
りながら、自分の腰を支えるアレッシオの腕に爪をたてた。
「んっ、んっ、はっ」
「ト、モ」
「ふぁっ、あっ、あっ」
「ほら」
なぜか、アレッシオが笑う気配がした。自分はこんなにもセックスに溺れているのに、アレッシオは余裕を見せているのが悔しい。
漏れる喘ぎ声を噛み殺すように唇を引き結んだ友春は、責めるようにアレッシオを見ようと振り返る。
そこには、戸惑うほどに優しい眼差しが自分を見つめていた。
「ケ・・・・・イ」
「愛している、トモ」
「・・・・・っ」
「愛してる」
何度も繰り返すアレッシオの声に、友春は胸が強く締めつけられる。
まだ完全に日が昇ってはおらず、露天風呂の明かりはアレッシオがつけなかったので、湯気のためにぼんやりとした視界だ。
その中でも、自分を真っ直ぐに見るアレッシオの表情はよく見て取れて、友春は猛烈な羞恥に襲われた。
数え切れないほど身体を重ね、どんな痴態もその目で見られていると分かっているのに、愛しているという言葉で赤くなってしまっ
ただろう自分の顔を見られるのが居たたまれない。
「ふぅ・・・・・くっ」
反射的に、友春はアレッシオと距離をおこうと、繋がっていた下半身を解こうとした。
しかし、アレッシオはそんな友春の動きを許さないようにさらに拘束を強くしてくる。
「誰もいない」
「え・・・・・」
「ここには私とトモの2人だけだ」
「ふ・・・・・た、り?」
「お前の全てを私に晒せ」
「・・・・・ケ、イ」
「私だけを見ろ、トモ」
重ねて言うアレッシオの声に、友春は何度も首を縦に振った。
愛していると言った瞬間に友春の中が急激に締まり、アレッシオはそのあまりの快感に息を詰めた。
何度も告げた言葉なのに、こういう状況で聞くのはまた違った意味を友春に与えるのだろうか。
「あっ、あっ、あっ」
そして、友春の反応はさらに過敏になり、自分からも積極的にアレッシオの腰に押し付けてくる。
食うつもりが食われている・・・・・そんな状況にアレッシオの口元には笑みが浮かび、友春の動きに合わせて腰の動きをさらに激し
くした。
もちろん、湯の中で揺れるペニスにも手を伸ばして様々に刺激し続ける。
バシャッ バシャッ
ズチュ グチュッ
早朝から湯の中で貪られた友春には限界だったのかもしれない。
「んあっ!」
高い声を上げて、あっけなく友春は射精した。ぬるついた感触が手に伝わる。
それと同時に、内壁が強くしまり、
「・・・・・っ」
アレッシオも友春の腰を強く抱き寄せたまま精を吐き出した。熱い迸りが友春の中隅々に染み渡り、すべてが自分のものになった
のだという実感が湧いた。
「トモ・・・・・」
「・・・・・・」
腕の中で弛緩した友春は声も出せないほどに疲れきっているようだ。
「大丈夫か?」
それでも、その言葉に健気に頷く様子に、アレッシオは微笑みながらつむじにキスをした。
中に吐き出した精液をかき出し、身体も洗ってやって、アレッシオは友春を抱き上げたまま部屋の中に戻った。
「じ、自分で・・・・・」
掠れた声で友春は訴えたが、アレッシオはすべての世話を自分がした。
濡れた髪をタオルで丁寧に拭ってやり、足の爪の先まで拭いてやって・・・・・そんなふうにしていると、友春の様子がオドオドと落ち
着きなく変化していくのが分かった。
「・・・・・」
それが照れくささゆえだというのが十分伝わり、アレッシオの口元からは笑みが消えない。
濡れて駄目になってしまった浴衣の代わりに、もう服を着たいという友春の言葉の通りにしてやり、まだ午前7時を少しばかり過ぎ
た時間だというのに、既に帰宅の準備が出来てしまった。
「朝食はどうする?」
「一応、朝はお食事処に行くことになっています」
そう言いながら友春は立ち上がろうとするが、アレッシオはいいやと直ぐに否定した。
「部屋に持ってこさせよう」
「え?」
「身体がきついだろう?」
「え、あ、でも、これは・・・・・」
自分自身のことは自業自得だと思っているのかもしれないが、このくらいのサービスはあの男にさせても文句は言わないだろう。
何より、アレッシオに抱かれたばかりの艶っぽい表情をした友春を、不特定多数の人間がいる場所に連れ出したくない。
「ケイ、でも」
ついでに、露天風呂の後始末もさせようと思う。
濡れた2組の浴衣を見れば何があったのか直ぐに分かるだろうが、それは返って好都合だ。友春とのセックスを直接見せ付けなく
ても、友春が誰のものなのかを強烈にあの男に自覚させることが出来る。
「私達は客なんだ。居心地良く過ごさせてもらうのは当然だろう」
「・・・・・」
「トモ」
「・・・・・任せます」
結局、友春は諦めたのかそう言った。
その反応に満足したアレッシオは、一度軽く友春の唇にキスをした後、指定された番号に電話を掛ける。出たのは女だったが、直
ぐに有重に換わるように伝え、しばらくして目当ての男が出た。
「私だ」
向こうの気配が緊張したものに変化したのを感じながら、アレッシオは自身の要求を告げた。
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