TOKEN OF LOVE










                                                                                         
『』の中は日本語です。




 友春がアルコールに弱いのはもちろん知っていたが、少しのそれは友春の中の羞恥心を打ち消してくれるはずだ。
現に、この場には自分達2人だけではなく有重という第三者もいるというのに、友春はアレッシオと舌を絡める濃厚なキスを従順に
受け入れていた。
 「んぁっ」
 一度唇を離し、チュッと鼻の頭にキスをすると、くすぐったそうに首を竦めながらアレッシオの背中に腕を回してくる。
まるでもっととねだられているようで、アレッシオは笑みを浮かべながらチラッとテーブルの向かいに居る男に視線を向けた。
 「・・・・・」
 「・・・・・」
(目を逸らさない、か。図太い)
 堂々と自分に対して勝負を挑んでくるような男だ。逃げる気はなさそうなのはその表情からも分かった。
この男がもし、アレッシオがどんな立場なのかを知っていたとしたらどうするだろうか。多分、青褪めてすぐさまこの場から立ち去るとは
思うが、考えの足りない男ならばもしかしたらその権力がどういうものかも分からないまま立ち向かってくるかもしれない。
(どうでもいいことだがな)
 そう、この男がどんな風に自分を見ようとも関係がない。多分、明日宿を離れたら二度とは会わない相手だ。
ただし、まだ日本にいる友春が、父親の知り合いだというこの男と絶対に再会しないという保障はない。
今自分が日本にいるこの瞬間に、友春が誰のものなのか・・・・・手を出したらどんなことが起こるのか、改めて思い知らさなければ
ならないと思った。
 「トモ」
 本当は、友春のどんな表情も自分以外に見せたくはなかったが仕方ない。アレッシオは友春の身体の向きを変えると、そのまま
自分の腰を跨がせて向かい合う形にした。
 「・・・・・ケ、イ?」
 「気持ちが悪いか?」
 「・・・・・う、うん、きもち、い・・・・・」
 どうやらあのアルコールは悪酔いはしない良いものだったらしい。
潤んだ瞳に赤く染まった頬をして、友春は真っ直ぐに自分だけを見ている。
 「それは良かった」
 浴衣のまま足を広げて跨っているので、腿の辺りまで裾は大きく捲れ上がっているものの、有重の位置からは友春の背中しか
見えないはずだ。
 「トモ」
 「ケ、イ」
 名前を囁き、軽く唇を合わせる。

 チュク

直ぐに、友春の小さな舌が自分のそれに絡みついてきた。積極的な愛撫にアレッシオも遠慮なく舌を吸いながら、片手を密着した
下半身に伸ばすと、合わせ目から中へ手を入れて下着越しに友春のペニスを握った。
 「あ・・・・・っ」
 無意識なのか、友春が足を閉じようとする。
 「トモ、そのままだ」
 「・・・・・っ」
アレッシオの腰があるので完全に閉じることは出来ないが、アレッシオは言葉で友春を縛った。
いくらアルコールで意識が定まっていなくても、友春は自分の言葉に逆らわない。それが分かった上でこんなことを言うのは確信犯
かもしれないが、アレッシオは少しでも自分を妬かせた友春に意地悪をしないではいられなかった。
 「トモはそのまま感じていればいい」
 「・・・・・んぅっ」
 軽く形に添って手を動かすと、友春のペニスは僅かにアレッシオの手を押し返してきた。何時もより反応が鈍いのはアルコールの
せいなので仕方が無い。
 下着が擦れる感触と、手の熱さ。後どのくらいではっきりとした反応を示すだろうか・・・・・アレッシオはもう一度男の顔に視線を
向ける。まさか自分がいる前で行為を始めるとは思っていなかったのかその目は驚きに見開かれていたが、どうやら立ち上がってこ
の場を辞するという奥ゆかしさは持っていないようだった。










 古いお得意様の息子。
呉服店の一人息子らしい青年は大人しそうで控えめ、礼儀正しく、とても好感が持てる相手だった。
 しかし、その連れという端整な容貌の外国人はいかにも不遜な態度で自分を見下し、青年に対する独占欲を見せ付けるよう
な態度を取っていた。
 昔から女には不自由していないので同性に興味などなかったが、一体この2人はどんな関係なのかということには自然に興味が
湧いた。
 だから、わざと伝達事項を言い忘れ、もう一度部屋へ舞い戻ってきたのだが・・・・・そこで始まっていたのはまるで新婚カップルの
ような露天風呂でのセックスだった。
 実際にこの目で見たわけではないが、聞こえてくる水音や青年の喘ぎ声は想像するしかないだけに妙にエロティックで、何だか負
けたような気がしてそのまま部屋から出た。

 今から考えれば、あの男が自分の存在に気付かなかったとは思えない。
それでも行為を続行したのは、もしかしたら自分への牽制だったかもしれないが・・・・・かえってそのことで青年に興味がわいた。
大人しそうなあの顔が、男に攻められてどういうふうに変化するのだろうか。
 わざと青年に構えば、男があからさまな嫉妬の目を向けてきて面白かった。
この2人は恋人同士かもしれないが、日本人ではない男はいずれ外国に帰ってしまうだろう。そうすればじっくりと青年に向き合え
るだろうと思い、そのためにも少しでも青年に対して自分が良い人間であるという印象を付けたかったのだが。

 「あ・・・・・んっ」
 目の前で繰る広げられている光景。
独占欲が強そうなこの男が青年とのセックスを自分に見せ付けるとはとても思えなかったが、少し低いこの喘ぎ声に自分の下半身
が反応していることは間違いではなかった。










 フワフワして、気持ちがいい。
顔に注がれる優しい感触はアレッシオの唇だろうか、友春は首を竦めながら思わずクスクスと笑ってしまった。
 アレッシオの雰囲気がとても優しくて、身体も熱くて、今自分が何をしているのかも良く分からないが、友春はもっと触れて欲しく
て、抱きしめてくれる力強い胸に寄り添った。
 「ん・・・・・ぁっ」
 優しかった刺激が、急に濃密なものになった。下半身・・・・・ペニスが、スルスルと布越しに擦られる。
 「ケ、イッ?」
ぼんやりとした眼差しを下に移すと、アレッシオの手が自分の下着越しにペニスに触れているのが見えた。とても恥ずかしい光景な
のに、頭の中で拒否する前に身体が受け入れてしまう。
 「んっ、はっ、あぅっ」
 「もっと刺激して欲しいか」
 「んっ、んっ」
 下着越しの刺激はとても緩慢なもので、友春は無意識にアレッシオの手に自分からペニスを摺り寄せてしまう。こんな意地悪を
しないで、もっと激しく手を動かして欲しかった。
すると、耳元で笑う気配がした後、今度は下着の中に入ってきた手が直接ペニスに触れてきた。
 「もう濡れている」
 「・・・・・ふぁっ」
 「気持ちがいいのか?」
 「んっ、い、いぃっ」

 グチュ ジュク

 「ん・・・・・ぁぅっ」
(も、漏れちゃ、うっ)
 気持ちがいい。下半身にギュウッと血が集まってきて、もっと強い刺激が欲しくなってしまう。
 「・・・・・っ」
ここは、いったいどこだったか。
今、自分は何をしているのか。
 「トモ」
 「ケ、ケイッ」
 アレッシオの声だけは、しっかりと耳に届いている。彼が側に居てくれる、こうして抱きしめてくれているのはアレッシオの腕なのだと
思うと、この快感にそのまま流されてもいいのだと思えた。
 「このまま、出していいぞ」
 まるで誘惑するような声に、友春は縋るように目の前の肩に強くしがみ付いた。何かに縋っていなければ、このままどこかに流され
てしまいそうだ。
 「い、いい、のっ?」
 「ほら」
 「あ・・・・・ぁっ!」
その瞬間、ペニスの先端部分を親指で擦られ、友春は押し殺せない声を上げたまま精を吐き出した。




 「あ・・・・・ぁっ!」
 「・・・・・っ」
 掠れた声を上げた友春の指が、肩に食い込むように強くしがみ付いてくる。同時に、友春のペニスを扱いていた自身の指先が熱
く濡れたのが分かり、アレッシオは宥めるように耳元にキスをした。
 酔っている友春は何時もより素直で、快感に正直だ。もちろん、慎ましやかで恥ずかしがる友春の身体を徐々に開いていくのも
楽しいが、こんなふうに最初からお互いに楽しめるのは悪くなかった。
 「・・・・・」
 アレッシオは濡れた手をそのまま口元に持っていき、友春の吐き出した精液をそのまま舐めとる。友春のものならば精液も涙も汗
も、全てが甘く、美味だ。
(・・・・・ああ、忘れていた)
 友春の可愛い姿に視線をとらわれていたアレッシオは、ようやくこの部屋の中に居る邪魔者に意識を戻す。
友春が自分のものだと見せ付けるつもりではあったものの、いくらその部分を見せなかったとしてもこの白く剥き出しになった腿さえも
もう見せたくないと思った。
 「もう、お前に用は無い」
 「・・・・・それ」
 「・・・・・」
 「・・・・・本当に、合意なんですか」
 なぜか、責めるように自分を睨みつけてくる有重に、アレッシオは口元を歪めた。
以前の自分ならばここで暗い闇の中に陥ったかもしれないが、友春から告白された今では堂々と合意だと言える。多少、一方的
な行為に見えたとしても、これは自分の有り余る愛情のせいなので構わなかった。
 「これが見えないか」
 アレッシオはまだ白く濡れた手を有重に見せ付けるようにした。
 「嫌がる男が、男の手で精を吐き出すか?」
 「そ、それは、刺激されたらっ」
 「では、お前も私が刺激してやれば出すというのか」
 「そ・・・・・っ」
 「どうなんだ」
想像するのも吐き気がしそうだが、今有重が言ったのはそういうことだ。
本人もそれを想像したのか顔を顰めていたが、やがてノロノロと立ち上がる。視界が座っているアレッシオたちよりも上になったので、
もしかしたら友春の肌蹴た胸元や濡れたペニスが見えてしまうかもしれない。
この愛しい存在をもう一欠片も見せたくはないと、アレッシオは強く友春の身体を抱き寄せた。
 「・・・・・」
 「・・・・・なんだ」
 「そんなふうに警戒しなくても、あなたから盗ろうなんて思ってもいませんよ」
 有重は丁寧に頭を下げる。
 「それでは、ごゆっくり」
 「・・・・・」
そのまま有重は襖を開けて部屋から出て行き、やがて玄関の扉が閉まる音がした。

(多少は利口なのか)
 あっさりと引き下がったのが強がりなのか、それとも真意なのかは分からなかったが、アレッシオはそのまま友春の身体を横たわら
せると玄関の鍵を閉めに行った。
もう、有重が勝手に部屋の中に入ってくることは無いだろうが、セックスの最中に一々対応するのは面倒臭い。
 「・・・・・」
 隣の間に行くと、そこにはまだマットが敷かれていなかった。
(自分でしろと・・・・・?)
本来はここのスタッフの役割だろうが、またここで誰かを呼び戻すというのも無粋だし、それくらいは自分にも出来る。
なにより、畳の上に友春を寝かせたままでは可哀想で、アレッシオは目に付いたクローゼットを開けて目当てのマットを2つ敷いた。
 そして、友春を連れてこようと歩きかけたが、何だか今こうしている自分の行動がおかしくて思わず笑みを漏らしてしまう。
(この私が、ベッドの用意をするなんてな)
何時もは自分が命令する前に全て準備が整っているものなのに、いくらここが日本といえども思い通りに行かなくて面白かった。
 後は、早く友春をここに寝かせて、じっくりと可愛がりたい。
いや、もう少し意識がはっきりとするまで待っていた方が楽しみが増すだろうか。
 「・・・・・ああ、デザートが食べられなかったな」
明日は友春に拗ねられてしまうかもしれないと、アレッシオは笑みを湛えたまま座敷へと戻った。