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(集団見合いみたい・・・・・)
パーティーが始まって30分も経たないうちに、慧の周りには挨拶の順番を待つ列が出来ていた。
そのほとんどが娘を連れ立っており、あわよくばという魂胆が丸見えで自己紹介を続けている。
(専務もデレッとしちゃって・・・・・)
元々女相手では愛想がいい慧は、どこから見ても完璧な態度で1人1人と握手を交わして微笑みを向けている。
相手の女はポ〜と慧を見つめ、今から他の女達を牽制する様に睨みをきかせているくらいだ。
(なんだか、テレビドラマの世界だよ)
面白くなくて視線を逸らしたいずみは、壁際に立っている洸を見た。
慧の傍には尾嶋が付いているので自分がいる必要はないだろうと、いずみはその場にいたくない自分の気持ちに目を
瞑って洸のもとに歩み寄った。
「洸君、退屈?」
「あ、いずみさん。・・・・・いいんですか?」
「専務には尾嶋さんが付いてるから」
「・・・・・和彦さん、目立ってますよね」
「え?」
「やっぱり、カッコいいから・・・・・」
「洸君・・・・・」
(尾嶋さんしか見えてないのか・・・・・)
確かに、尾嶋は慧に劣らない容姿をしているし、秘書という立場からかどこかストイックな雰囲気を持っていて、女達の
視線を慧と二分している。
尾嶋の性癖(ゲイ)を知らない洸は溜め息を付く。
「僕・・・・・一緒にいてもいいのかなあ。和彦さん、休みは何時も僕に付き合ってくれるし、夜も出来るだけ早く帰って
きてくれるし、なんだかお荷物のような気がして・・・・・」
「そんなことないよ!尾嶋さん、本当に洸君のこと大切にしてるし、無理してるなんて全然見えない!」
「だけど、僕のせいで・・・・・」
「こらこら、可愛い顔が二つとも難しくなってるぞ」
「俊ちゃんさんっ?」
どこから現れたのか、後ろから突然声を掛けてきたのは俊栄だ。
『会長』と呼ぶいずみに、他人行儀だからやめてくれと言った俊栄は、ぜひ『俊ちゃん』と呼んで欲しいと言って来た。
かなり年上であり、それも自分の会社の会長をそう呼ぶことに抵抗があったいずみだったが、ぜひという言葉に押し負
けてしまい、せめて『さん』という敬称だけは付けさせて欲しいと言って、『俊ちゃんさん』という奇妙な呼び方になってい
た。
「ここに来てるのがばれちゃってね、引っ張り出されたんだよ」
「あ、ああ、そうですよね、会長だし」
「いずみ君、言葉」
「あ、俊ちゃんさんでした」
慌てて言い直すいずみに笑いながら頷くと、俊栄はまだ暗い顔をしている洸の顔を覗き込んだ。
「洸君、どうした?」
「・・・・・なんか、別世界だなあって思って」
2人でいる時は、尾嶋は優しいお兄さんのような存在で、どんな時も自分を最優先にしてくれていることは分かってい
た。
しかし、初めて見た外の世界で、一流企業の社員としての顔を見てしまうと、急に不安が湧き上がってきたのだ。
尾嶋の周りに群がる綺麗な大人の女達に気後れしてしまい、洸はどんどん気持ちが卑屈になってくる。
「こんな気持ち、初めてだから・・・・・」
次から次へと湧いて出る挨拶をしに来る人間達に内心うんざりしていた慧は、ふと振り返った尾嶋の視線が全然別
の方を見ていることに気付いた。
「・・・・・じいさん」
そこには、何時の間にか現れていた俊栄の姿があった。
考えれば、俊栄ほどの立場の人間がこの場に呼ばれることは不思議ではないが、ちゃっかりといずみの隣を陣取って
いるのは気に入らない。
「全く、自由人は・・・・・」
「専務、少し失礼してもいいですか?」
「ん?」
「洸の顔色が良くないようなので・・・・・」
「そうか?」
「気のせいかもしれないんですが」
そう言いながらも、尾嶋の気持ちは既に向こうに飛んでいるようだ。
ちょうど潮時かと思った慧も、直ぐに同意した。
「じゃあ、私も行こう。・・・・あ、ちょっと失礼」
更に声を掛けてくる者達に、顔は笑顔で、しかし態度ではきっぱりと拒絶して、慧達は真っ直ぐいずみと洸のもとに向
かい始めた。
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