指先の魔法
1
玄関に入ると直ぐに2人の男の姿が見えた。外の男達と同様に鋭い目付きをしている。
しかしその格好はラフな服装だった外の男達とは違い、全員黒ずくめの背広を着ていた。明らかに外の男達よりも物騒な
気配を漂わせている。
「倉橋幹部、そいつは?」
(か、幹部?)
「社長は承知されている」
(・・・・・社長?)
聞き慣れない単語の連続に、真琴の緊張と困惑はどんどん強くなってきた。
このまま逃げ出したいと思わず足を止めたが、倉橋と呼ばれた男に腕を取られる。
「!」
「大人しくしていれば何もしない」
「ほ、ほんと?」
動揺するあまり子供のような口調になってしまった真琴に、男は僅かな笑みを見せて頷いた。
「わ、分かりました・・・・・」
まさかこのままボコボコにされることはないだろう・・・・・かろうじて自分を納得させ、真琴は再び怖々と足を進める。
突き当たりのドアの前までくると、人の気配と物音が聞こえてきた。
(まだ誰かいるんだ・・・・・)
キュッと唇を噛み締めた時、男がドアの向こうに声を掛けた。
「男が来ました」
「入れ」
聞こえてきたのは腰にズシンとくるような、低く甘い声だった。
「あ、あのっ」
「入ったら、言われたとおりに」
真琴の言葉を遮り、倉橋はドアを開いた。
「あ・・・・・ん、んぐ・・・・・っ」
「・・・・・え・・・・・」
途端に目に入ったのは、ソファに腰掛けている男。そして・・・・・。
「!!」
男の足元に蹲っている女の後ろ姿だ。下着姿の、ほぼ全裸に近い姿で、座っている男の下半身に顔を埋めている。
後ろ姿だったが、女の頭の動きとくぐもった荒い息遣い、そして生々しい粘膜が擦れる様な音で、二人が今どんな行為を
しているのかが奥手な真琴にも直ぐに分かった。
一瞬で真っ赤になって目を逸らした真琴に目を向けたまま、ソファに腰掛けている男は女に行為を止めさせることも無く言っ
た。
「男か?」
何時もならば即座に反論する言葉にも、真琴は頭が真っ白になっているので反応出来ない。
身体も声も硬直させたままの真琴の代わりに、真琴をここに連れてきた男、倉橋が答えた。
「そうです」
「・・・・・」
「社長のご希望には沿わないと思いますが」
その言葉に、社長と呼ばれた男は苦笑する。
「絡ませてみるのも面白いと思ったんだがな」
「思い付きでおっしゃるからです」
「まったくだ」
接待で行ったクラブのNo.1ホステスにどうしても抱いてほしいと懇願され、気まぐれに女のマンションまできた。しかし、若い
だけがとりえの女は自分が選ばれたと勘違いして、男の護衛についてきた者達を追い出して二人きりになろうとした。男の
立場より、自分とのSEXを優先させようとしたのだ。
たかが性欲処理の為に見繕った女の傲慢な態度に、男の心情は少しも動くことはなかった。
ベルトを外すのさえ面倒になりそのまま帰ろうとしたのを、女が必死で止め、懇願しtた。
何でもするから抱いてくれと。
そして、たまたまテーブルの上にあったチラシを見て、ピザ屋に電話をさせた。やってくる配達の男を誘惑できれば抱いてや
ると言うと女は直ぐに頷き、見せ付ける為だと勝手に服を脱ぎ捨てて男のペニスを銜えたのだ。
勃起しなくてもかなりの大きさのペニスを美味しそうに愛撫している女の拙い愛撫にも飽きてきた。余興のはずの配達の男
も、まるで子供で楽しめそうにない。
そんな男の思いを正確に読み取る存在が、呆れた口調を隠さずに言った。
「それで、いかがなさいますか?このまま返しますか?」
頭上で交わされる会話を無意識のまま聞きながら、真琴の視線は女に向けられていた。
しかしそれは邪まなものではなく、『苦しくてかわいそう』という思いからだ。
真琴よりは年上のようだが、まだ十分若い女だ。本来なら二人だけの行為を自分のような第三者に見られて、自分なら死
にたいくらい恥ずかしい。ましてや女の子なら・・・・・そこまで考えると、真琴の凍りついた喉が開いた。
「や、やめさせてあげて下さい・・・・・」
突然の真琴の言葉に、二人の男の視線が向けられた。
「何をだ?」
今まで気にもしなかった真琴の存在に、改めて気付いたかのようだ。
「か、かわいそうです、女の子なのに、人に見られるなんて・・・・・」
「女の子?」
あまりにもそぐわない言葉に、男は今度こそ声を出して笑った。
今の自分の立場より、男のペニスを銜えている女のことを心配することが珍しく、初めて目の前の少年に興味をそそられた。
「頼み事は、相手の目を見て言えと言われなかったか?」
「・・・・・」
言われていることは正しい気がして、真琴は思い切って顔を上げると、やっと真正面から座っている男を見た。
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