指先の魔法
10
海藤はゆっくりと真琴の中から自分のペニスを引き出した。
ペニスは真琴の流した血と、自分の吐き出した精液で汚れている。
海藤は眉を顰め、勝手に綾辻のポケットチーフを取ると、無造作にペニスを拭ってファスナーを上げた。ペニスはまだ半ば立
ち上がったままだったが、これ以上初めての真琴に行為を強いることは出来なかった。
(まさか、この俺がな・・・・・)
女とも男とも経験がない真琴にとって、海藤とのセックスはかなりの衝撃だったろう。
前戯を全く何も施さないままの行為は、真琴に海藤という男の存在を知らしめる為のものだ。これで真琴は嫌という程海
藤を意識するだろう。
ヤクザという立場上、嫌われることや恐れられるのは慣れているし、真琴がどう思おうと手に入れることは決めていた。
しかし、身体も心もまだ幼い真琴に、必要以上の苦痛を与えようと思うほど海藤はサディストではなく、欲情をコントロール
出来るという自負もあって、真琴の体の中に精液を吐き出すつもりはなかった。
初めて抱く男の体の、女とは全く違う熱さと狭さに我慢が出来なかった自分が、信じられないと同時に新鮮でもあった。
「おい」
嗚咽を漏らしながら身体を震わせている真琴は、だらんと足を開いたままだ。
閉じきれない肛門から海藤の吐き出した精液と血が混ざり合い、ピンク色の粘ついた液となって白い足を伝っている。
その姿は十分海藤の欲情を刺激したが、海藤はそんな自分の気を散らす為に煙草を取り出して口に銜えた。
「どうする?店に電話してやるから、このまま・・・・・」
「・・・・・や、です・・・・・」
海藤に最後まで言わせないまま、真琴は掠れた声で言った。
「帰ります」
「バイクには乗れないだろう」
「帰ります、帰して下さい・・・・・」
頑なにそう言い続けると、真琴はゆっくりと身体を起こした。
既に倉橋と綾辻は拘束を解いていたが、開きっぱなしだった両足は、なかなか元に戻らないようだ。
クシャクシャになったTシャツと、汚れた自分の下半身には視線を向けようとはせず、ずり上がるようにしてソファの下に落ちて
いるツナギを取ろうと手を伸ばしたが、
「!!」
途端に襲った激痛に声にならない悲鳴をあげ、真琴はその場に蹲ろうとする。
しかし、その姿勢も苦痛を増すもので、真琴はポロポロと涙を流し続けた。
「体が動かないだろう。どうしても帰りたかったら車で送ってやる」
「・・・・・いいです、自分で帰ります」
「真琴」
「帰れます」
頑として首を縦に振らない真琴に、さすがの海藤も根負けしてしまった。
どちらにしても、今日はこのまま帰してやるつもりだった。
今日の痛みを忘れかけた頃に再び姿を現わし、もう逃げられないと真琴自身に悟らせるつもりだ。
「・・・・・分かった。綾辻、後始末をしてやれ」
「はい」
「いいです!」
真琴は慌てて否定したが、海藤は煙草に火を点けながら言った。
「そのまま帰ってもいいが、間違いなく血がつくぞ。周りの者は何と思う?」
「・・・・・ち・・・・・」
「まさか、男にレイプされたと正直に言うつもりか?」
「そんな・・・・・」
「綾辻は店の女の世話で慣れている。医者に見せているつもりになればいい」
「・・・・・」
まるで女のような扱いに、真琴の嗚咽は激しくなる。
海藤はゆっくりと真琴の傍まで歩み寄り、俯くその頬に指先を触れた。
「俺の名前は海藤貴士だ。忘れることのないようにな」
「かい・・・・・ど、う、さん・・・・・」
「そうだ」
「どうして、こ、こんな、こんなこと・・・・・」
「欲しいと思ったからだ。他に理由はない」
「そんなことで、こんな酷い・・・・・」
「諦めるんだな、真琴。お前はもう俺のものだ。他の誰をも見ることは許さない」
それは海藤自身初めて感じる強い独占欲だった。
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