指先の魔法



19






 「お、おかえりなさい」
 「・・・・・今風呂か?」
 「え・・・・・と」
 パジャマ姿に頭にタオル・・・・・そんな姿で玄関先まで迎えに来た真琴を見た瞬間、眼鏡の奥の海藤の目元が少し柔ら
かくなった気がして、真琴は思わず俯いてしまった。
(うわあ〜、だから迷ったんだよ〜)
 バイトが休みだっただけ、真琴の困惑する時間は長かった。風呂に入ることさえ、もう二時間も迷っていたのだ。
(お風呂に入っていたらいかにも待ってたみたいだし、入っていなくていきなりなんて・・・・・もっと嫌だし・・・・・)
しかし、思い切り風呂上りの姿で出迎えることになり、真琴はいたたまれない気分だ。
 海藤はそんな真琴の頬にそっと手を触れると、そのまま奥に入っていく。
海藤が動いて初めて、真琴はその後ろに立っていた倉橋に気付いた。
 「く、倉橋さん・・・・・お、疲れ様・・・・・です」
 「・・・・・お疲れ様です」
 少し間があったと思うのは気のせいか、倉橋は軽く頭を下げると言った。
 「明日10時にお迎えにあがりますので」
 「はい」
 「・・・・・では、私はこれで」
 「おやすみなさい」
一瞬何か言いかけた倉橋は、結局何も言わないままマンションから立ち去った。



 「真琴」
 玄関の鍵を閉めた真琴がリビングに戻ると、スーツの上着をソファにかけ、ネクタイを外している海藤が言った。
 「風呂は何時入った?」
 「えと、20分くらい前・・・・・」
 「もう一度俺に付き合え」
 「へ?」
 「準備も出来るし、ちょうどいい」 
 「い、一緒に入るって事ですか?むっ、無理です!出来ません!お風呂せまっ、せま・・・・・くは、ないけど、でもっ」
大人がゆうに3人はゆったり入れる広いバスルーム。狭いからという言い訳は通用しないだろう。
 「やっぱりお風呂は・・・・・」
 「十分覚悟を決める時間はあっただろう。悪いが俺も・・・・・」
我慢出来ないと耳元で言われ、真琴は一瞬で真っ赤になった。



 長く綺麗な指先・・・・・それでも真琴よりも大きな手が、器用にパジャマのボタンを外していく。
大人になって誰かに服を脱がせて貰うなど経験がなくて、真琴はどこに視線をやっていいのか分からなかった。
 「下着も脱がそうか?」
 「じっ、自分でっ」
さすがにそこまでは任せられなくて慌てて言うと、海藤は無理強いをせず自分の服を脱ぎ始めた。
(・・・・・綺麗・・・・・)
 広いとはいえ、脱衣所の中では嫌でも相手の体が見える。
海藤はごつくはないが綺麗に筋肉のついた体だった。手足も長く、腰の位置も高い。
(そうだ、海藤さんの裸見るの、初めてだっけ)
 あの夜は少しも服を乱さないまま、真琴を犯した。あの時唯一触れた場所は・・・・・。
そう思いながら無意識に落としtた視線の先に、黒い茂みの中から少し立ち上がり掛けた海藤のペニスがあった。
 「!」
全く隠そうとはせず、かえって真琴に見せ付けるように体の向きを変える。
(た、たってる・・・・・)
 それは紛れもなく、海藤が真琴に欲情している証だ。
(お、おっきいよ、あんなのホントに入ったわけ〜?)
自分自身のものと比べれば、まるで大人と子供程の違いがある。完全に勃起し、今の状態よりもはるかに大きくなったペ
ニスが自分の中に入ったとは到底信じられない。
(切れちゃうはずだよ・・・・・)
 行為の後の痛さを思い出し、真琴は無意識に海藤から離れようとする。
しかし、海藤はその腕を掴み、そのままバスルームの中に引き入れた。
 「海藤さんっ」
 「真琴」
名前を呼ばれ、次の瞬間キスをされた。