覇王と賢者の休息





                                                      
※ここでの『』の言葉は日本語です






 『嘘みたい、日本語で話せる相手がいるなんて!』
 『俺だってそうだよ!シエンから俺と同じ言葉を話せるって聞いたけど、本当にそうなのかってずっと思ってた!それが俺と同い
年位の奴なんて、ホントびっくりだよ!』
 『え、あ、ソウさんって・・・・・』
 『俺18!高3!』
 『え?あ、僕、高1です』
(僕より2つも年上なんだ・・・・・)
 見掛けの幼さの割には自分より2学年も上だと分かって、有希は思わず言葉に詰まってしまう。
そんな有希に、蒼は悪戯っぽく笑い掛けながら言った。
 『あ〜、俺のこと年下だと思ったんだろ?』
 『あ、その、ごめんなさいっ』
 『いいって。そんなの慣れてるし、今の気分はサイコーだから何でも許す!』
 『ソウさん』
 『なあ、ユキってなんでここに・・・・・』
 「いい加減に離れろ」
 「あっ」
 蒼と抱き合っていた有希は強引に後ろに腕を引っ張られ、その拍子に蒼も2、3歩引きづられてしまった。
足を踏ん張ることでこける事は無かったが、蒼は有希を強引に扱う相手に対して、真っ直ぐな目を向けながら言い放った。
 「おまえ、こーいん!!らんぽーもの!!」



(何を言ってるのだ、こやつは・・・・・)
 目の前の子供の言う言葉は、アルティウスには全く理解出来なかった。
そうでなくても有希がこの子供と話している言葉も全く分からなかったアルティウスは、1人蚊帳の外のような気がしてしまい、ど
うしても有希の注意を自分に引き寄せたかった。
 強引なアルティウスの行動は何時ものことだと、された当人の有希は気にも留めなかったが、目の前の子供はそうではなかっ
たらしい。
次々と意味の分からない言葉を投げつけてきた。
 「おまえ、すこしはゆきをたいちにしてるかっ?」
 「・・・・・」
 「そんならんぽーすると、ゆきけかするたろ!」
 「おい」
 「ちぷんのてかさをちかくしろ!!」
 「シエン王子っ、こやつは何を言っておるのだ!」
意味は全く分からなくても、その態度や口調で自分を非難しているというのは分かる。
 いい加減にイライラしてしまったアルティウスは、子供の保護者・・・・・いや、とても信じられないが、伴侶であるはずのシエン
に矛先を向けた。
それまで苦笑を零しながら一連の様子を見ていたシエンは、優しく少年の肩を抱き寄せながらアルティウスに言った。
 「アルティウス王よ、まずはこの者の名前をしっかりと覚えていただきたい。この者の名はソウ、私の愛しい妻です」
 「・・・・・分かっておるわっ」
 「それに、バリハンの言葉が分かるあなたなら、理解しようと思って聞けば意味は分かるはずですよ。初めからソウに敵愾心を
抱いていては、耳に届く言葉も途中で拒否されてしまいます」
 「・・・・・」
 「ソウは、あなたにもっとユキ殿を大切に扱って欲しいと言っているのです。この世界に来てまだ日が浅いゆえ、きちんとした言
葉にはなっていないのかもしれませんが、同じ世界の人間として、ソウはユキ殿を心配しているのですよ」
 「・・・・・」
 アルティウスは黙ったまま少年・・・・・蒼を見る。
生意気そうにつりあがった大きな目、まだ子供のように丸みを帯びた頬、キュッと真一文字に結ばれた唇。
造作の一つ一つは悪くは無く、むしろ黙ってにっこり笑っていれば、稚児として傍におきたいという人間はかなりいるかも知れな
い。
しかし・・・・・。
(態度が横柄過ぎる!私がエクテシアの王であるという認識がないのかっ?)
アルティウスにとってはかなりの難敵で、食指が動くという以前の問題だった。



 「シエン、あいつ、わかってない?」
 「そのようですね」
 有希をしっかりと腕に抱いたまま蒼を睨んでいるアルティウスのオーラは、確かに普通の人間であったらビクビクと恐れを抱いて
しまうぐらいのものだろう。
しかし、剣道の試合で何時も凄まじい殺気を放つ相手と対してきた蒼にとっては、その睨みも怖いとは思わなかった。
 それよりも、あんな乱暴者にいいようにされている有希のことが心配だ。
(俺がどうにかしてやらないと・・・・・!)
年下で、あんなにも華奢な有希。体格的には自分とそう変わらないかも知れないが、武道で鍛えてきた自分は僅かながらも
筋肉は付いているし、体力にも自信がある。
いざとなったら、有希を連れて逃げ出してやろう・・・・・蒼はそう物騒なことを考えていた。



 面白いな・・・・・シエンはそう思った。
あんなに想いを寄せていたはずの有希を前にしても、シエンの意識は蒼にしか向けられない。
確かに以前よりも綺麗に、そして明るくなったと思うが、その原因がアルティウスだとしても少しも心が動かず、むしろ大切にして
もらっているのだと安心するほどだった。
(人の気持ちというものは不思議なものだ)
 「シエン」
 大きな目がじっと自分を見つめている。
愛しいのはこの相手だと、シエンはとけるような笑みを向けた。
 「どうしました、ソウ」
 「こいつ、おーさまたよね?」
 「ええ、エクテシア王ですよ」
 「ユキはおーひ?」
 「ええ」
 「ユキ、おとこ。ころも・・・・・たいちょーぷなのか?ユキ、かなしーことない?」
 「ああ、大丈夫ですよ」
 多分、蒼は後継者のことを言っているのだろう。自分の経験したような辛い思いを有希がしないか、年上である蒼はそれを
心配したのだ。
 「確かアルティウス王には、5人の御子がいらっしゃるはずですから」
 「こっ、こにん!!」
 驚いたように声を上げた蒼は、パッとアルティウスを振り返った。
 「お、おまえ、こにんこもちっ?」
 「な、何だ」
頭の中でグルグル考えたのだろう。
蒼はアルティウスの腕の中にいる有希に駆け寄って叫んだ。
 『ユキ!こいつ5人の子持ちだって!絶倫過ぎだよ!お前潰されちゃう!!』
 『え?』
途惑ったように目を瞬く有希と。
 「何を言っておるのだ!いい加減ユキから離れぬか!」
叫ぶアルティウスと。
 「・・・・・っ」
両方の国の言葉を理解するシエンが噴き出してしまうのと。
4者4様の様子に、周りにいる衛兵や供達はただ黙って立っていることしか出来なかった。







                                        
                              








有希ちゃんと蒼君の井戸端会議2